第五回八雲PC読書会報告

第五回八雲PC読書会報告

開催日時:2025年5月23日13時30分~15時30分
開催場所:八雲倶楽部
出席者:9名(五期生1人、四期生4人、二期生1人、一期生3人)

今回は2部構成で開催しました。

第1部:テーマ本をめぐる語り合い

 今回初めての試みとして、皆で1冊の本を読み、それぞれの感想や意見を語り合いました。テーマ本は、小川洋子著『博士の愛した数式』。2004年に第1回「本屋大賞」を受賞し、映画化もされた話題作です。実は、第2回読書会の際にAさんから紹介され、今回、改めて全員で読んでみることにしました。 

 「本屋大賞」とは、全国の書店員が「この本をお客様に薦めたい!」と思った作品に投票して選ばれる賞で、2004年に創設されました。出版業界が低迷していた時期に登場し、話題作を次々と生み出しています。『博士の愛した数式』はその第1回受賞作です。

 読書会ではさまざまな意見が飛び交いました。

 数学好きのBさんは、「この作品の魅力は何といっても、全編にちりばめられた美しい数式」と語っていました。一方、数学が苦手なCさんは、「内容は難しかったけれど、数学ってちょっと面白そうと思ったのは初めて」とのこと。いずれにしても、数学がこの物語のユニークな世界観をつくっているのは間違いありません。

 また、博士が家政婦の子ども「ルート」に注ぐ温かな愛情にも多くの共感が集まりました。記憶が80分しかもたない博士が、変わることなく愛し続ける存在が「ルート」と「阪神タイガースの江夏」というのも、ユーモラスで印象的だったという声が多くありました。

 Zさんは、著者の略歴や物語の構造にも注目し、博士と家政婦、そしてその息子ルートとの関係に数学、野球、阪神、江夏といった要素を巧みに配置することで、“愛”や“ジェラシー”、“アイデンティティ”といったテーマを考えさせられた、と語ってくださいました。

 一方で、「描写がやや表面的で深みに欠ける」との意見もあり、議論は多様でした。

 短い時間ではありましたが、非常に濃い内容の意見交換ができ、充実したひとときとなりました。


第二部 本の紹介タイム

 第2部では、参加者が最近読んだおすすめの本を紹介し合いました。今回は、ジャンルもテーマも多彩な6冊が取り上げられ、興味深い内容が続きました。 

①『土と生命の46億年史──土と進化の謎に迫る』藤井一至(講談社)

 土の誕生から、そこに根差す生命の歴史を壮大なスケールで描いた科学ノンフィクションです。土はどのようにして生まれたのか、そこに住むミミズや微生物がどれほど重要な役割を果たしているのか。そして、土と海の関わり、生命誕生の謎、微生物・植物・動物の進化と絶滅の歴史など、46億年にわたる「土と命の循環の物語」が綴られています。土という身近な存在から、地球と生命の壮大なドラマを感じることができる一冊です。

②『The Plant Messiah──植物たちの救世主』カルロス・マグダレナ著、三枝小夜子訳(柏書房)

 著者は、イギリス・キュー王立植物園に勤務する植物学者。世界各地の絶滅危惧植物を救うため、自らジャングルや高地を旅し、繁殖の難しい植物の再生に挑んでいます。植物への深い愛情と探求心にあふれ、読者も思わず応援したくなる“植物版インディ・ジョーンズ”のような存在です。科学的知見と情熱が交差する、読み応えのあるドキュメントです。

③『海獣学者、クジラを解剖する──海の哺乳類の死体が教えてくれること』田島木綿子(山と渓谷社)

 著者は、海の哺乳類、特にクジラやイルカの死体を解剖・調査することで彼らの生態に迫る「海獣学者」。なぜ彼らは海へ戻ったのか? どのように進化してきたのか? なぜ浜に打ち上げられるのか? こうした疑問に、死体を通して答えを探る著者の姿勢が印象的です。死を通じて見えてくる命の真実と、海に生きる哺乳類たちの神秘が丁寧に描かれています。

④『ミス・マープルシリーズ全13篇』アガサ・クリスティー(早川書房)

 推理小説の女王アガサ・クリスティーが生んだ名探偵ミス・マープル。イギリスの田園風景の中、編み物をしながら難事件を解決していく高齢の女性探偵です。13の長編作品にわたって描かれる彼女の推理は、どれも巧妙で、人間観察に裏打ちされた名推理が光ります。単独でも楽しめますが、シリーズとして通読すると、人物像や物語世界の奥行きがさらに深まります。気軽に読めるのに奥深い、読書会メンバーにもファンの多いシリーズです。

⑤『ザ・グッド・ライフ──ハーバードの幸福論』ロバート・ウォールディンガー、マーク・シュルツ(辰巳出版)

 本書は、ハーバード大学による85年以上にわたる長期調査「成人発達研究」をもとに、人が幸福に生きるために何が本当に大切かを探るものです。調査から明らかになった最も重要な結論は、「幸せな人生には、良好な人間関係が不可欠である」ということ。収入や地位よりも、信頼できるつながりの質が、心身の健康と幸福に直結しているといいます。家族や友人、職場の関係など、身近なつながりを見つめ直すきっかけになる一冊です。読後感も温かく、世代を問わず勧めたい一冊です。

⑥『潤日(ルンリィー)──現代中国・富裕層の移住実態』舛友雄大(東洋経済新報社)

 中国の富裕層が社会的・政治的リスクを避けるため、日本を含む海外へ移住する動きに焦点を当てたノンフィクション。タイトルの「潤日(ルンリィー)」は、「潤(run=逃れる)」と「日本(にち)」を組み合わせた造語で、日本に移住する中国人富裕層を指します。彼らが東京湾岸のタワーマンションを購入し、日本の教育制度に魅力を感じている背景には、中国国内の統制や不安も。著者は、ジャック・マー氏などの例も交えて、移住の現実とその裏にある「自由への希求」を多角的に描き出します。グローバル社会の今を知るうえで貴重な視点を与えてくれる一冊です。

 紹介された本は、自然科学から人間関係、国際社会、推理小説まで幅広く、それぞれの本を通じて新たな発見がありました。参加者からも「読んでみたい!」との声が多数上がり、読書の楽しみを共有する時間となりました。

 次回の読書会は6月27日(金)13時から、また「本の紹介」を中心に行います。
そして、次々回のテーマ本読書会は7月18日(金)13時から。テーマ本は以下の2冊です。

『恐竜はすごい、鳥はもっとすごい』佐藤拓己(2025年、光文社)
『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』川上和人(2018年、新潮社)

どうぞお楽しみに!     (文責 正田、小原)

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次