第13回 八雲PC読書会報告― イザベラ・バード『日本奥地紀行』を読む ―

イザベラ・バード 日本奥地紀行

今回の読書会の題材は、
イザベラ・バード『日本奥地紀行』。
明治11年、日本の「奥地」を旅した、当時47歳の英国人女性の記録である。

ふたを開けてみれば、
「紀行文として面白い」
「いや、これは調査報告書だ」
「もはやスパイ活動では?」
「翻訳論」まで飛び出し、開始早々から議論が縦横無尽に広がり、予定時間を軽くオーバーする盛り上がりとなった。

「なぜ、明治11年に、こんな旅を?」

 Aさんは、まずその描写の精密さに驚かされたという。
人、風習、風景、宿、道、匂いまでが克明に書き込まれている。
「これは単なる旅行記では終わらない」と感じ、
・金沢正脩『イザベラ・バード『日本奥地紀行』を歩く』
・宮本常一『イザベラ・バードの『日本奥地紀行』を読む』
・金坂清則『イザベラ・バードと日本の旅』
と、参考図書を三冊も読み込んだとのこと。
その結果、浮かび上がってきたのは、
「なぜ彼女は、あの時代に、あの内容の旅をしたのか」という大きな問いだった。

「これは紀行文じゃない。調査記録だ」

 Bさんは、特にアイヌの記述に関心を持ち、
金坂清則『完訳 日本奥地紀行3』を精読。
「日本人であっても、今なお知らないことが多い。
この部分だけでも読む価値がある」と評価した。
 さらに、
「植物・岩石・医学に詳しく、イラストも描ける。
これはもう“スーパーレディー”でしょう」
との名言(?)も飛び出す。
結論は一言、
「これは紀行文ではなく、すごい調査報告書だ」。

左:バードの旅程  右:バードが描いたアイヌの家

「スパイ説」浮上

 Cさんからは、やや刺激的な視点が提示された。
当時、インド、ビルマ、マレー、シンガポール、香港などはイギリスの植民地。
「キリスト教伝道や、日本の将来を見極めるための情報収集、
つまり“半ば公的ミッション”だったのでは?」
という仮説である。

 観察力と描写力の鋭さを考えると、
「スパイとまでは言わなくても、かなり本気の“調査”だったのでは」
という意見に、多くがうなずく展開となった。

そして話は自然に、
「じゃあ、同じ目で朝鮮や中国をどう見たのか?」
へと広がり、
『朝鮮奥地紀行』『中国奥地紀行』まで“つい買ってしまった”という告白も。

「積読が、20年越しで花開く」

 Dさんは、20年以上前に購入して未読だった
『日本奥地紀行』と宮本常一の関連書を、今回あらためて読了。
さらに、アーネスト・サトウ、オールコックといった
同時代の外国人による日本論にも手を伸ばし、
「複数の“外の目”を並べて読む面白さ」を紹介された。

「一番町の英国大使館」

 Eさんからは、東京の具体的な地名が話題に。
現在も一番町にある英国大使館は、
明治初期にも同じ場所にあり、
イザベラ・バードもそこに宿泊していたという。

「彼女の町の描写を読むと、
 当時の風景と、今の東京が重なって見えてくる」
という指摘に、一同深く納得。

通訳・伊藤鶴吉という“もう一人の主役”

 Fさんは、東北紀行(会津・置賜編)を手がかりに、
「バードが見たもの/見なかったもの」
「見えたもの/見えなかったもの」
という視点の重要性を指摘。

特に注目を集めたのが、
随行通訳・伊藤鶴吉(当時18歳)の存在である。
非常に優秀な知性と通訳能力を持つ若者だったが、
バードの辛辣な人物評
(身だしなみに気を使いすぎ、白粉を塗り、手袋を欠かさない…)
が紹介されると、会場は思わず笑いに包まれた。

同時に、
「伊藤は、何を伝え、何を伝えなかったのか」
という、重い問いも残された。

おわりに

今回の読書会は、
一冊の本を読む会でありながら、
歴史、民俗、植民地政策、翻訳、フィールドワーク論まで話題が広がり、
『日本奥地紀行』が“今も生きている資料”であることを再確認する会となった。

そして何より、
「こんなに面白いなら、もっと早く読めばよかった」
という声が、あちこちから聞こえてきたのが印象的だった。

次は――
朝鮮か、中国か。
すでに“次の旅”は始まっている。

次回予告

さて、読書会の“旅”はまだ続きます。
 
第14回読書会は、
2月27日(金)13時~。
テーマは恒例の 「各自推薦本紹介」。
分野も時代も自由、
「最近読んで面白かった一冊」から
「これは語らずにいられない」という積読掘り起こしまで、
本棚の奥と記憶の引き出しを総動員しての回となりそうです。
※初参加の方も大歓迎。聞くだけ参加もOKです。

そして――
第15回読書会は、
3月27日(金)13時~。

少し趣向を変えて、
岩波ジュニア新書から
科学分野、あるいは他分野を各自一冊選び、
「ジュニア向けなのに、なぜか大人の頭と心に刺さる」
一冊を持ち寄ります。
※こちらも 新規参加、途中参加、久しぶり参加、大歓迎

専門書でも入門書でもない、
“分かる言葉で、核心に迫る”岩波ジュニア新書。
読書経験値を問わず、
「説明する」「問い直す」「話してみる」楽しさを、
あらためて味わう回になるはずです。

奥地を歩いた次は、
思考の足腰を鍛える短い山道へ。
初めての方も、どうぞ気軽に扉を叩いてください。
次回もまた、ページの向こうでお会いしましょう。


(文責 正田、小原)

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