今回の読書会の題材は、
イザベラ・バード『日本奥地紀行』。
明治11年、日本の「奥地」を旅した、当時47歳の英国人女性の記録である。
ふたを開けてみれば、
「紀行文として面白い」
「いや、これは調査報告書だ」
「もはやスパイ活動では?」
「翻訳論」まで飛び出し、開始早々から議論が縦横無尽に広がり、予定時間を軽くオーバーする盛り上がりとなった。
「なぜ、明治11年に、こんな旅を?」
Aさんは、まずその描写の精密さに驚かされたという。
人、風習、風景、宿、道、匂いまでが克明に書き込まれている。
「これは単なる旅行記では終わらない」と感じ、
・金沢正脩『イザベラ・バード『日本奥地紀行』を歩く』
・宮本常一『イザベラ・バードの『日本奥地紀行』を読む』
・金坂清則『イザベラ・バードと日本の旅』
と、参考図書を三冊も読み込んだとのこと。
その結果、浮かび上がってきたのは、
「なぜ彼女は、あの時代に、あの内容の旅をしたのか」という大きな問いだった。
「これは紀行文じゃない。調査記録だ」
Bさんは、特にアイヌの記述に関心を持ち、
金坂清則『完訳 日本奥地紀行3』を精読。
「日本人であっても、今なお知らないことが多い。
この部分だけでも読む価値がある」と評価した。
さらに、
「植物・岩石・医学に詳しく、イラストも描ける。
これはもう“スーパーレディー”でしょう」
との名言(?)も飛び出す。
結論は一言、
「これは紀行文ではなく、すごい調査報告書だ」。

「スパイ説」浮上
Cさんからは、やや刺激的な視点が提示された。
当時、インド、ビルマ、マレー、シンガポール、香港などはイギリスの植民地。
「キリスト教伝道や、日本の将来を見極めるための情報収集、
つまり“半ば公的ミッション”だったのでは?」
という仮説である。
観察力と描写力の鋭さを考えると、
「スパイとまでは言わなくても、かなり本気の“調査”だったのでは」
という意見に、多くがうなずく展開となった。
そして話は自然に、
「じゃあ、同じ目で朝鮮や中国をどう見たのか?」
へと広がり、
『朝鮮奥地紀行』『中国奥地紀行』まで“つい買ってしまった”という告白も。
「積読が、20年越しで花開く」
Dさんは、20年以上前に購入して未読だった
『日本奥地紀行』と宮本常一の関連書を、今回あらためて読了。
さらに、アーネスト・サトウ、オールコックといった
同時代の外国人による日本論にも手を伸ばし、
「複数の“外の目”を並べて読む面白さ」を紹介された。
「一番町の英国大使館」
Eさんからは、東京の具体的な地名が話題に。
現在も一番町にある英国大使館は、
明治初期にも同じ場所にあり、
イザベラ・バードもそこに宿泊していたという。
「彼女の町の描写を読むと、
当時の風景と、今の東京が重なって見えてくる」
という指摘に、一同深く納得。
通訳・伊藤鶴吉という“もう一人の主役”
Fさんは、東北紀行(会津・置賜編)を手がかりに、
「バードが見たもの/見なかったもの」
「見えたもの/見えなかったもの」
という視点の重要性を指摘。
特に注目を集めたのが、
随行通訳・伊藤鶴吉(当時18歳)の存在である。
非常に優秀な知性と通訳能力を持つ若者だったが、
バードの辛辣な人物評
(身だしなみに気を使いすぎ、白粉を塗り、手袋を欠かさない…)
が紹介されると、会場は思わず笑いに包まれた。
同時に、
「伊藤は、何を伝え、何を伝えなかったのか」
という、重い問いも残された。
おわりに
今回の読書会は、
一冊の本を読む会でありながら、
歴史、民俗、植民地政策、翻訳、フィールドワーク論まで話題が広がり、
『日本奥地紀行』が“今も生きている資料”であることを再確認する会となった。
そして何より、
「こんなに面白いなら、もっと早く読めばよかった」
という声が、あちこちから聞こえてきたのが印象的だった。
次は――
朝鮮か、中国か。
すでに“次の旅”は始まっている。
次回予告
さて、読書会の“旅”はまだ続きます。
第14回読書会は、
2月27日(金)13時~。
テーマは恒例の 「各自推薦本紹介」。
分野も時代も自由、
「最近読んで面白かった一冊」から
「これは語らずにいられない」という積読掘り起こしまで、
本棚の奥と記憶の引き出しを総動員しての回となりそうです。
※初参加の方も大歓迎。聞くだけ参加もOKです。
そして――
第15回読書会は、
3月27日(金)13時~。
少し趣向を変えて、
岩波ジュニア新書から
科学分野、あるいは他分野を各自一冊選び、
「ジュニア向けなのに、なぜか大人の頭と心に刺さる」
一冊を持ち寄ります。
※こちらも 新規参加、途中参加、久しぶり参加、大歓迎。
専門書でも入門書でもない、
“分かる言葉で、核心に迫る”岩波ジュニア新書。
読書経験値を問わず、
「説明する」「問い直す」「話してみる」楽しさを、
あらためて味わう回になるはずです。
奥地を歩いた次は、
思考の足腰を鍛える短い山道へ。
初めての方も、どうぞ気軽に扉を叩いてください。
次回もまた、ページの向こうでお会いしましょう。
(文責 正田、小原)


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