日本の箸文化

左 手で食べるフィリピンのブードルファイト、右 日本の食事

 みなさんは、Boodle Fight(ブードルファイト)というフィリピンの食事スタイルをご存じでしょうか。Boodle Fight は、フィリピンの陸軍士官学校に起源を持つ食事方法の一つとされています。バナナの葉をテーブルいっぱいに広げ、その上に肉や魚のメイン料理、ライスやフルーツなどを山のように盛り付け、皆で手づかみで食べるのが特徴です。

 写真は、ドバイのシーフードレストランで実際に食した際のものです。ここではシートを敷いたテーブルの上に料理がどさっと盛られ、ビニール手袋を着用するスタイルでした。確かに、この野性味のある食べ方は自然と和気あいあいとした集いになり、その目的にも頷けるものがありました。
 ブードルファイトの目的は、共に食事を分かち合うことにあります。これは、日本で言う「同じ釜の飯を食う」という感覚にも通じ、安心感や信頼感が生まれる効果があるのかもしれません。
 手づかみで食事をすることには最初少し抵抗を感じましたが、「日本のおにぎりだって手で食べるでしょう」と言われると、なるほどと思わされます。もっとも、心の中では「やっぱり箸が欲しいな」とつぶやいていましたが……。

 さて、小原さんが「日本の箸も、実はかなり独特な存在のよう」と述べられていたのを受けて、今回は箸について文献で得た知見も交えながら少しお話ししてみたいと思います。
 現代の日本では、世界各地の食文化の影響を受け、スプーン、ナイフ、フォークといった食具もすっかり身近なものになっています。しかし、それでも箸の便利さには改めて感心させられます。
 箸は、
 • 摘む
 • 割る
 • 混ぜる
といった多彩な機能を持つ、非常に汎用性の高い食具です。
 また、実用性だけでなく装飾性も兼ね備えている点に、日本の箸文化の面白さがあります。

 2007年のNHK「美の壺」では、箸の美しさを「食卓を彩る身近で小さな美術品」と表現し、その機能美が紹介されていました。番組中の「たった二本の棒を器用に使い、さまざまなことをしているのが私たちの日常だ」という一節には、私も深く共感しました。
 箸の歴史
 藤原京や平城京の遺跡からは、檜材を削って作られた箸が出土しており、日本では飛鳥時代にはすでに使用されていたようです。
 その後、桃山時代から江戸時代にかけて庶民の食具として広まり、江戸中期には外食文化の発展に伴って割り箸も登場しました。江戸の風俗画にも、箸を使う庶民の姿が描かれています。
 箸の国・日本
温かい汁物をよそった椀を手に取り、直接口をつけ、箸を使って食べる作法は、日本らしい食文化の一つと言えるでしょう。
小さな煮豆をつまみ、炊き立てのご飯に海苔をのせてくるりと巻く。蕎麦やうどんをすくい、つるりと口に運ぶ。
 日本の食事において、箸は欠かせない存在です。
そして日本人は、箸を単なる食べるための道具としてだけではなく、感性や美意識を込めたものとして育ててきたように思います。
たとえば塗り箸。漆を施し、さらに貝や金箔、銀箔をあしらった箸は、もはや工芸品の領域にあると言ってよいかもしれません。
 素木、素材の豊かさと意匠
小原さんが「箸は神道の清浄観」と述べられたように、日本では箸の素材にもさまざまな願いが込められてきました。
• 檜や杉 … 長寿
• 槐(えんじゅ) … 延寿
• くぬぎ … 苦を抜く
• 南天 … 難を転ずる
 こうした言葉遊びと祈りが重ねられてきたのも、日本らしい感性の表れでしょう。また、お正月の祝い箸は「両口箸」と呼ばれ、片方を神様、もう片方を人が使うという意味を持つハレの箸として知られています。神様と人間をつなぐ「橋渡し」の意味を持つという説もあり、実に興味深いものです。
 私のフィールド、料理と箸
最後に、私のフィールドである料理と箸について少し触れて終わりたいと思います。懐石料理、とくに茶会の席では、一つの器に盛られた料理を客人が取り分けることがあります。このとき使われるのは竹の取り箸で、亭主は色や節の位置に趣向を凝らして客人をもてなします。
• 焼き物には青竹の「中節」
• 焚き合わせには「天節」
• 香の物には「胡麻竹」
さらに、抹茶席の菓子鉢には亭主が用意した黒文字の箸が添えられ、客人は黒文字の楊枝で菓子をいただきます。こうした細やかな趣向にも、日本の食文化の豊かさがうかがわれます。

左、黒文字の箸    右、黒文字の楊枝

 私たちの身近にある箸にも、実に多くの歴史や思いが込められているのですね。
今日はぜひ、お家にある箸にも少しだけ脚光を当ててみてはいかがでしょうか。

                            (文責 一期生 小西)

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