【エッセイの部】
季節の言葉:水の実 調布市 藤田 淳子
「水の実」をご存じですか?茄子を賽目に切り、米と混ぜて里芋の葉に載せたものを私の田舎ではこう言います。旧盆のお墓参りにそれぞれのお墓に供えるのです。コロナ下の今、懐かしく思い出します。
【俳句の部】
季語:名月 江東区 小倉 芳子
- 名月や一寸五分の江戸団子
江戸時代の月見団子は、十五夜にかけて1.5寸約5センチもありました。深川江戸資料館に江戸時代のお月見が再現展示してあります。月を見ながら思いを馳せてみました。
季語:七五三 江東区 小倉 芳子
- しっかりとばぁばも祈りし七五三
「七五三」は冬の季語ですがあえて。孫が七つを迎えました。河野裕子の慈愛に満ちた句「しっかりと飯を食わせて陽にあてしふとんにくるみて寝かす仕合わせ」に重ねて、孫の健やかな成長を願う思いを詠みました。
季語:名月
- 傘さして尚煌々と夜半の月 八王子市 中野 茂男
団子先行の仲秋の月でした。
【好きな一句紹介の部】
武蔵野市 夏目 重美
- 萬緑の中や吾子の歯生え初むる 草田男
(「萬緑」編集委員会選『中村草田男集』朝日文庫、昭和59年)
一面の緑に覆われる山野、ほとばしる生命力、まさに「万緑」の季節です。夏になると口ずさむ草田男の名句です。幼かった息子も三十路となりました。
武蔵野市 夏目 重美
- 分け入っても分け入っても青い山 山頭火
(村上護編小崎侃画『山頭火句集』ちくま文庫、平成8年)
のびのびとゆったりと呼吸のごとく一句としています。自由律の魅力と奥行の深さを感じます。
【吟行会の部――古地図散歩「武家屋敷街」(北の丸公園東西)】
- 秋来ぬと 木々色めきて北の丸 江東区 小倉 芳子
先日のまち歩きはまだ日差しが強さを残していたのですが、北の丸公園の林に目をやると、そこここに色づき始めた木々があり、あぁ秋が来ているのだと、その感覚を読んでみました。
府中市 深田 武寛
- 秋深し番町めぐり江戸懐古
旗本直参たちが颯爽と街を歩く姿を想像しながら番町・麹町界隈を歩きました。
江戸のエリート官僚達が醸し出す街の躍動感はいかばかりかと思いを馳せました。
- 旗本の屋敷の跡に秋の風
かつての旗本屋敷も今はオフィスや高級住宅街。秋の風に無常観、寂寥感を覚えました。
- 城想い皇居の沢で紅葉狩り
江戸城は武蔵野台地の端っこを削って作られたからこんな渓谷もあったのです。
北の丸公園の中にこんな渓谷があると知る人は少ないのではないかと思います。
武蔵野市 夏目 重美
- 点点と「看板住宅」秋惜しむ
神保町界隈、大正の震災復興期に建てられ、戦災を乗り越えた「看板住宅」、今も所々に残されています。「江戸東京たてもの園」に移築されるものもあるのでしょうが、何といっても現役であることを称えたいと思います。
- 蟷螂の守る記念碑近衛隊
近衛歩兵第一連隊祈念碑の前、かまきりが踏みつけられるのも恐れず、集団の通過を睨み付けていました。かまきりには時間と空間の価値観念も無くただ自然の赴くままに逞しく生きています。
- 青天の千鳥ヶ淵の秋揺るる
青天の千鳥ヶ淵、水面には紅葉の木々が映っていました。秋風とともに木々の揺れ動く様を一句としました。背後の霊園の御魂にも黙の祈りを捧げました。
- 秋天の不易流行北の丸公園
「不易流行」は芭蕉の俳境です。北の丸公園の散策は、この俳境のごとく、過去を思い、現在と未来を呼び起こす一時となりました。
- 番町の谷の坂道風の色
大番組は老中直轄の将軍を守護する旗本組織、番町は大番組の居住地、谷筋は坂道となり、上下の身分差もありました。風の色は無色透明や純白を表す俳句的表現、生身の人間社会はいつの時代も多才・多彩です。
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