第21回 八雲PC読書会報告

第21回 八雲PC読書会報告

本の紹介・推薦――本から本へ、話題はどこまでも
・2026年9月23日 渋谷八雲倶楽部

今回は、各自が「これは」と思う本を持ち寄る紹介・推薦の回でした。

 小説、ノンフィクション、新書、歴史書、そして読書会では初めて漫画も登場。これだけ分野が違えば話がまとまるはずもなく――と思いきや、一冊の本から別の本へ、さらにそこから思いがけない方向へと話題がつながり、気がつけば大幅な時間超過となりました。

 最初から盛り上がったのが「翻訳」です。

 ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』の原卓也訳と亀山郁夫訳、チャンドラー『長いお別れ』の清水俊二訳と『ロング・グッドバイ』の村上春樹訳。同じ原作の冒頭部分を実際に読み比べてみると、文章のリズムも人物の印象もずいぶん違います。

 翻訳とは原文を日本語に置き換える作業なのか。それとも翻訳者による一つの創作なのか。村上訳は「村上春樹の作品」と言ってもよいのではないか、いや翻訳を論じるならシェイクスピアこそ面白い、と議論は広がり、イザベラ・バード『日本奥地紀行』の異なる翻訳にまで飛び火しました。

 船橋洋一『戦後敗戦』からは一転して日本の現在と将来へ。冷戦後の日本が経験したさまざまな「敗戦」を、組織や統治の構造的な問題として捉えた本です。GDPや一人当たりGDPなどの話にも及び、「この先、日本はどうなるのか」「何か手立てはあるのか」と、こちらは少々重い空気になりました。

そこで登場したのが『鉄腕アトム』全15巻。読書会初の漫画です。

 お薦めは第9巻「地上最大のロボット」。1960年代に描かれた物語に、AI、原子力、環境問題、生命の尊厳、人間と科学の関係など、現在にもつながる問いが詰まっています。手塚治虫の先見性に感心しながら、話はいつしか私たち自身の少年時代へ。月刊誌の付録、貸本屋、昔読んだ漫画……。先ほどまで日本の将来を心配していた一同が、たちまち昭和の少年少女に戻りました。

 カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』では、臓器提供のために生まれたクローン人間を通して、人間とは何か、生命を誰かのために利用するとはどういうことかが話題になりました。ディストピア小説として読むのか、生命倫理の物語なのか。臓器移植やクローン、iPS細胞へと話が広がり、さまざまな意見が出ました。

 梶原阿貴『爆弾犯の娘』は、指名手配された父を持つ著者自身の少女時代を描いた作品。戸籍や住民票のない生活、逃亡する父と家族という重い題材でありながら、1970年代の池袋を生きる子どもたちのたくましさが印象に残ります。「親はあっても子は育つ」という紹介者の言葉に笑いながらも、全共闘の時代を知る世代からは、別の感慨も語られました。

 渡辺佑基『鳥は飛びながら眠る』では、超小型センサーを野生動物につけてその生態を調べる「バイオロギング」の世界へ。飛びながら眠る鳥、一晩に驚くほどの回数の狩りをするアザラシなど、「へえ!」の連続です。しかし単なる動物の珍しい生態の紹介ではなく、それを人間の進化や行動と結びつけて考えるところがこの本の面白さ。睡眠やジョギングなど、いつの間にか話は私たち自身の身体にも戻ってきました。

 『漢字の音読みの謎を解く』と『古文と漢文』からは、日本語の世界へ。呉音・漢音・唐音、訓読、仮名の成立、そして古文・漢文を学校で学ぶ意味まで話題が広がりました。毎日何気なく使っている日本語も、歴史をたどれば実に複雑です。「正しい日本語」と簡単に言ってよいのか、そんなことも考えさせられます。

 歴史からは『極楽征夷大将軍』『観応の擾乱』『南北朝時代』の三冊。同じ南北朝という時代を、小説、歴史研究、そして『太平記』という軍記物語から読み比べます。

 史料から確認できる「事実」と、小説家がそこから創り出す「人間」は別のものです。『極楽征夷大将軍』の足利尊氏、直義、高師直は、史実を踏まえながらも作者によって血の通った人物として動き始めます。

 ここで、最初の「翻訳」の話とどこかでつながりました。原文をもとに翻訳者が日本語の作品をつくる。史料をもとに小説家が歴史上の人物をつくる。どこまでが事実で、どこからが創作なのか。その境界にこそ読書の面白さがあるのかもしれません。

 最後は『鶏まみれ』と『さいごの色街 飛田』。

 一方は食鳥処理場、もう一方は大阪の色街。「食」と「性」というまったく異なる世界ですが、普段は見えにくい場所へ著者自身が長い時間をかけて入り、そこで働き、生きる人々を描いたノンフィクションという共通点があります。

 ところが、この頃には予定時間を大幅に超過。せっかく用意した紹介も残念ながら短縮版となりました。

もっとも、読書会はそこで終わりません。

 二次会に場所を移すと、飛田から吉原へ、中村遊廓へ、さらに赤線・青線へ……。本の紹介が短かった分を取り返すかのように、こちらでも話は広がりました。

 振り返ってみれば、ドストエフスキーとチャンドラーから始まり、日本の将来を憂え、アトムとともに少年時代へ戻り、クローン人間の生命を考え、爆弾犯の家族と池袋を歩き、鳥と一緒に空を飛び、漢字の音をたどり、南北朝を駆け抜け、最後は飛田から吉原へ。

 こうして並べてみると、何の読書会だったのか、ますます分からなくなります。

 しかし、一冊の本から話が始まり、誰かの一言から別の本や自分自身の記憶へ飛び、それをまた別の誰かが受け取って話を広げていく。

 予定時間を守るという点では、今回も決して模範的な読書会ではありませんでした。

でも、本を読む楽しさだけでなく、本について人と話す楽しさを、たっぷり味わった一日になりました。

今後の予定
・10月16日(金)13時~
・11月27日(金)13時~

(文責 正田、小原)

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